以前、介護が必要な高齢者が医療保険で長期入院する社会的入院の問題について少し触れましたが、今回は介護保険と同時に医療保険等の他制度利用時における優先適用の判断について少し詳しくまとめてみます。
かつて医療の必要性からでなく家族の介護が困難であることから高齢者が病院にやむなく長期入院する社会的入院が問題視されていた時代がありました。それをなくすため療養型病床群が創設され、やがて医療療養病床と介護療養病床とに区別されるようになりました。その後、医療は医療施設、介護は介護施設に区別する方針となり、介護療養病床も廃止される流れとなりました。
このような一連の流れから、医療保険とは別に、介護保険が制度化されることとなりました。
しかし、医療サービスと介護サービスは重複する場合があり、このような場合に、どちらを優先的に適用するかの判断が問題となります。
高齢者にとっては、一方的にサービスを提供されるのではなく、自らの意思で必要なサービスを選択し適切にサービス提供される仕組みが確保される必要があることから、このような場合、原則として介護保険が優先的に適用されることになります。
しかし、末期がんや国指定の特定疾患(筋ジストロフィー等)等の場合、例外的に医療保険が優先的に適用されることになります。
介護が必要な末期がん患者の治療費が高額になる場合、介護保険では利用額上限を超える部分は本人負担となりますが、医療保険では上限設定はなく自己負担額も高額療養費制度の利用で低く抑えられることから、医療保険を適用できれば経済的負担をあまり心配せず必要な医療サービスが受けられるからです。
また、国指定の特定疾患等は、症状の固定がなく長期入院を余儀なくされる場合、医療サービスの提供は必須と言えるので、社会的入院の問題も生じないからです。
次に、介護サービスと障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(特に内容の重複のある自立支援給付)が提供された場合、どちらが優先的に適用されるかが問題となります。
この場合も原則として介護保険が優先的に適用されることになります。
介護サービスは原則として1割自己負担ですが、障害福祉サービスの自己負担割合は利用者の経済力に依拠することになるからです。ただし、障害福祉サービスを長期間利用し介護サービスへの移行により利用者負担が増える場合、負担軽減のため高額障害福祉サービス等給付費が支給されます。
しかし、行動援護や就労移行支援など介護保険制度にないサービスの提供を受ける場合、例外的に障害福祉サービスが優先的に適用されることになります。
また、介護保険の居宅サービスには支給限度があるため、不足する部分は障害福祉サービスを上乗せして利用することができます。
勤務中の傷害・疾病等で重度の障害が残り、労働災害補償保険法(労災保険)に基づく補償を受ける場合、介護保険と労災保険の介護保障給付でどちらが優先的に適用されるかが問題となります。
この場合、原則として介護保険ではなく、労災保険の介護保障給付が優先的に適用されます。
しかし、労災保険の介護保障給付は上限額が設定されているので、その上限額を超えて介護サービスの提供を受けようとする場合、例外的に介護保険の給付を受けることが可能になります。
基本的な考え方は、原則として優先的に適用される方が決まっているものの、状況によって不利になる場合は、例外的に他方の採用も可能とし、利用者の経済的な負担をできるだけ軽くしようとしているのですね!