前回、手術支援ロボットについて少し触れたので、今回は手術支援ロボット(ダヴィンチ)について少し詳しくまとめてみます。
手術支援ロボット(ダヴィンチ)とは、最先端の手術支援ロボットで、腹腔鏡手術を支援する内視鏡下手術支援ロボットのこと言います。
1990年代に米国で開発(米国陸軍が遠隔操作で戦場の兵士の治療を行う目的)され、1999年よりIntuitive Surgical社から臨床用機器として販売されています。患者のお腹にあけた1~2cmの小さな穴から内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、高度な内視鏡手術が可能になります。手術者は3Dモニター画面を見ながらあたかも術野に手を入れているような感覚でロボットアームを操作して手術を行うことができます。
海外でも積極的に導入されており、アメリカでは前立腺全摘手術の約8割が手術用ロボットを使ったロボット手術になっています。
ダヴィンチ・システムによる手術の主な長所は、①腹部に小さな穴を数か所開けるだけで手術痕もほとんど目立たず、患者の術後の痛みも軽くなる、②炭酸ガスで腹腔内を膨らませるため開腹手術に比べて患者の出血が少ない、③自然な動きで狭い空間でも自由に器具を操作可能で手術者の手ぶれも防止できる、 ④手術者がカメラを自在に操作して立体的な3D画像で見られ、視野が広くかつ拡大することができる、などが挙げられます。
一方、デメリットとしては、患者にとっては、保険適用できる例が少ない、入院費用が高くなる、医療機関にとっては、機器の導入・維持コストが非常に高い、手術者に慣れ(一定のトレーニング)が必要、などが挙げられます。
2018年の診療報酬改定以前は、保険適用できる手術が前立腺がんと腎臓がんだけだったため、かなり高額な医療機器にも関わらず、診療収益にはあまり結びつきませんでした。厳しい言い方をする方からは、若く優秀な医師を病院に招き入れるための客寄せパンダだと揶揄されていた時代もありました。
しかし、2018年の診療報酬改定で、肺がん、食道がん、心臓弁膜症、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、子宮筋腫などに対する手術も保険適用できることとなり、より診療収益を得やすい状況になりました。
これにより遠隔地でも都市部の医師によるロボット支援下内視鏡手術を保険診療で受診する可能性が広がりました。今後もその傾向は強くなることが予想され、高額なダヴィンチを保有している病院に優秀な医師も患者も集中することが考えられます。
現状では、その他の疾患については、保険適用ではなく自由診療となり、患者の全額自己負担となるため、普及のためには保険適用範囲の拡大が望まれるところです。
前回述べましたように、AI導入による診療やオンライン診察・遠隔手術技術(手術支援ロボットなど)の活用により、地域偏在による医師不足の解消が期待されています。
利点が多いダヴィンチによるロボット支援下内視鏡手術が、もっと普及するためには、メーカー側によるダヴィンチの導入・維持コストの低減が実現されるとともに、国による保険診療の適用範囲の拡大が必要です。
ロボット支援下内視鏡手術の普及により、住んでいる地域によらず、日本全国どこでも高度な医療が等しく受診できる社会になることを祈念しております!