前回は遺産分割についてまとめてみましたが遺言による遺産分割にも少し触れたので、今回は遺言とその手続について書きます。
民法967条で、遺言は普通方式と特別方式の2つの方式あることが明記されています。
しかし、特別方式の方は、死亡の危急に迫った場合や伝染病隔離者の場合など、かなり特殊な事例ですので、以下では普通方式を中心に書いていきます。
普通方式の遺言には、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)があります。
まず、自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書して押印することで作成されます。 ただし、2019年1月13日以降、相続財産の財産目録は、自書ではなくパソコン等で作成した資料や銀行通帳コピーなどを利用し添付できますが、各ページに署名・押印する必要があります。
次に、公正証書遺言は、①証人2人以上の立会、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に伝達、③ 公証人がこれを筆記して遺言者・証人に確認、④遺言者・証人が承認して署名・押印、⑤公証人は左記要件を満たすことを付記して署名・押印、という手続きを踏んで作成されます。作成後、公正証書遺言は、公証人役場に保管されることになります。なお、推定相続人及び受遺者等は証人になれません(民法974条)。
秘密証書遺言は、①遺言者が遺言書に署名・押印、②遺言者が遺言書に押印した印章で封印、③遺言者が公証人1人・証人2人以上の前で封書を提出後、自己の遺言書である旨・氏名・住所を申述、④公証人が封書提出日・遺言者の申述を封紙に記載した上で遺言者・証人が署名・押印、という手続きを踏んで作成されます。
公正証書遺言による遺言書は法律の専門家である公証人が作成するので不要ですが、それ以外の遺言書は、相続開始後、遅滞なく、家庭裁判所の検認を受けなければなりません(民法1004条)。
ただし、2020年7月10日以降、法務局に自筆証書遺言を保管できる制度が施行され、自筆証書遺言が法務局に保管されている場合、家庭裁判所による遺言書の検認が省略できます。
ちなみに、公証人とは、全国各地の公証人役場で国の公務である公証事務を担う公務員のことを言います。
さて、一般的に、遺言書は、自筆証書遺言か公正証書遺言で作成されます。
自筆証書遺言は、遺言者自身で手軽に作成でき低コストなのがメリットです。また、前述のように、2020年7月10日以降、自筆証書遺言が法務局に保管されていれば家庭裁判所の検認も省略でき、ハードルが下がります。しかし、遺言書は全文を自筆・日付・署名・押印等の法的要件を満たす必要がありますが、作成時にこれらの法的要件の不備があれば、遺言書が無効になるというデメリットがあります。
一方、公正証書遺言は、公証人が遺言書を作成するため、法的要件の不備はまず起こらないというメリットがあります。しかし、前述のように作成時に2人以上の証人が必要など手続が煩雑であり、また、公証人の手数料などのコストがかかるというデメリットがあります。
どちらがよいとは一概に言えませんが、遺言書が相続時に確実に効力を発揮してほしいと考えるのでしたら、公正証書遺言にしておくのがベターでしょう。