これまで医療の質と効率について少し触れましたが、今回はそれに関連して医療事故と医療過誤について少し詳しくまとめてみます。
医療の過度な効率追求は、場合によっては、医療事故や医療過誤を起こす可能性があります。
ここで、医療事故と医療過誤とは似たような概念に思われますが、意味は違います。
医療事故とは、一般的に、医療機関等において医療の全過程で発生するすべての事故のことを言います。
一方、医療過誤は、発生を避けることができたにもかかわらず、医療従事者の過失等により発生した医療事故のことを言います。
ですので、前者は医療従事者の過失や発生可能性の認識の有無に関わらず発生した医療上のエラーを言いますが、後者は医療従事者の人為的ミス等、回避可能だった医療上のエラーを言います。
医療事故=医療過誤ではなく、医療事故≧医療過誤で、医療事故の方が広い概念です。
医療機関の中には、いわゆるヒヤリ・ハット事例を収集して、医療従事者に情報共有することで、医療事故の発生を防止しようとしているケースもあります。
医療事故が発生した場合、遺族は医療機関を相手取って訴訟を起こす場合があります。
この訴訟は医療裁判と呼ばれますが、医療に素人の原告(遺族側)にとって、立証がとても難しい裁判になります。
しかし、2015年10月から医療事故調査制度が始まり、すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)において、管理者(院長等)が予期しなかった医療事故が発生した場合、そのすべてを医療事故調査・支援センターに報告する義務が課せられました。
この制度で医療事故は、「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該管理者が当該死亡または死産を予期しなかったもの」と定義されています。
医療事故が発生した場合、医療機関はまずは遺族に説明を行い、医療事故・調査支援センターに報告後、速やかに院内事故調査を行います。院内事故調査終了後、調査結果を遺族に説明、医療事故・調査支援センターに報告が行われます。
この制度の目的は、医療事故の再発防止で責任追及が目的でないものの、医療事故・調査支援センターへの報告書を訴訟に使用することは可能となっています。そういった意味では、遺族側を保護する制度とも言えます、
ただし、医療事故かどうかの判断は、医療機関の管理者が行うので、遺族側は不審な死亡と考えていても、医療機関側は予期された死亡と考えていれば、医療事故という扱いにはなりません。そこがこの制度の少し弱い面と言えます。
医療訴訟の多くは、遺族と医療従事者とのコミュニケーションや認識の行き違いにより起こるものです。
医療従事者は十分に説明したつもりでも、情報の非対称性(遺族側は医療に関する情報が豊富な訳ではない)などにより、うまく伝わっていない場合があります。
医療従事者は遺族に分かりやすい説明するだけでなく、繰り返し何度も説明する忍耐力が求められるケースもあるかもしれません。
言うは易く行うは難しですが、訴訟回避のためにも、医療従事者は遺族が納得するように、遺族と十分なコミュニケーションを図ることが重要です。