前回、介護保険で利用額上限を超える部分は本人負担である点について少し触れましたが、この場合、上限を超えての介護サービスの提供は混合介護となる可能性がある点を踏まえ、今回は混合診療と混合介護について少し詳しくまとめてみます。
まず、医療サービスにおいて、保険診療と保険外診療(自費診療)の混合診療は、原則として禁止となっております。
混合診療を認めると、経済力のある患者は保険診療に加えて高額な自費診療を受診し、そうでない患者は財力に見合った診療しかできなくなり、国民皆保険制度の下、国民が平等に医療を受けられるという制度基盤が崩壊する危険性があるからです。
以前書きましたが、混合診療になる場合は、原則、一部保険診療という扱いにはならず、すべて自費診療として全額自己負担となります。
しかし、厚生労働大臣の定める特定の保険外診療は患者の同意を条件として混合診療(保険診療との併用)が認められています。
この場合、通常の保険診療内の診療については保険診療という扱いになり一部自己負担、それ以外の保険診療外の診療については評価療養・選定療養として自費診療という扱いになり全額自己負担となります。
ここで、評価療養とは、保険承認前の医療(先進医療等)や薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用など、今後、保険適用の見込みがあるものを言います。また、選定療養とは、差額ベッド代や200床以上の病院を紹介状なしで受診した患者の定額負担徴収など、患者の選択によるものを言います。
一方、介護サービスにおいて、介護保険サービスと介護保険外サービスの混合介護は、一定の条件の下、認められています。
混合介護となる場合は、以下のケースが考えられます。
例えば、訪問介護の場合、外出に付き添った後に保険外サービスで趣味や楽しみのための場所へ同行するケースや通院のために乗り物の乗降介助を行った後に保険外サービスで病院内の待ち時間・診察の付き添い、トイレ介助を行うケースなどが考えられます。
また、通所介護の場合、介護サービスを行った後、保険外サービスで介護施設内において散髪などのサービスを受けるケースや昼間は介護保険によるデイサービスが行われた後に保険外サービスで夜間の宿泊をするケースなどが考えられます。
混合介護には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリットしては、利用者側からすると、介護保険の枠に縛られず、利用者が望む充実したサービスを受けることができる点が挙げられます。サービス事業者側からすると、事業者間の競争を促進して新たなサービスが生まれやすくなるとともに、収益が増加すれば介護従事者の給与増や人員増に反映することで介護従事者の待遇改善が期待できる点が挙げられます。介護者側からすると、介護者の肉体的、精神的負担を軽減できる点が挙げられます。
デメリットとしては、利用者側からすると、介護保険外サービスは全額自己負担のため、経済的負担が大きくなり、経済的に余裕のある方のみ混合介護が受けられる形になり公平性を害する点が挙げられます。サービス事業者側からすると、経済的に余裕のある利用者に個別対応がなされ、作業の効率性や利用者間の公平性が害されたりする可能性がある点が挙げられます。
最後に、混合介護が認められる一定の条件が問題となりますが、サービス事業者は以下の事項への対応が求められます。ただし、公正取引委員会が混合介護の弾力化を提言したため、今後、以下の条件は緩和される可能性があります。
・介護保険の対象と対象外のサービスの明確な区別
・介護保険の対象と対象外のそれぞれの基本的指針と利用料の設定
・混合介護に関する事項について契約締結前に文書での利用者の同意
・介護保険の対象から対象外への移行のタイミングに関する説明
・介護保険の対象と対象外のサービスと会計の明確な区別
介護保険の対象と対象外のサービスの明確な区別は難しく、サービスを連続であれば利用可能ですが、同時・一体的な利用はできないこととなっております(例えば、要介護者の食事を作った後に、家族の食事を同じ材料で再度作らなければなりません)。このような点から混合介護は融通が利かないと制度に不満を持たれることもあります。
混合介護の弾力化による規制緩和で、利用者・サービス事業者・介護者すべてにとって使いやすい制度になることを期待しております!